要件事実データベース

本ブロックが抗弁となるブロック

占有開始時の悪意(即時取得)

ダイアグラム

要件前主が権利者でないことを知っていたこと
又は前主が権利者であることを疑っていたこと

参考文献:司法研修所編「新問題研究要件事実」140頁

関連条文: 民法第186条第1項

民法 第186条 (占有の態様等に関する推定)

占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。

2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

ブロック:「占有開始時の悪意(即時取得)」について

民法186条1項(暫定真実)
民法186条1項は、『占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。』と規定している。これは、主張・立証責任の転換を図る、いわゆる暫定真実を規定するものと解されている。この規定により、前述③占有開始が「平穏に」なされたこと、④占有開始が「公然と」なされたこと、⑤占有開始が「善意で」なされたこと、の主張・立証責任が転換されることになり、即時取得を主張する者は、これらに該当する具体的事実を主張・立証する必要はなく、相手方が抗弁としてそれぞれの反対事実である強暴、隠秘または悪意に該当する具体的事実を主張・立証すべきことになる。(参考文献:司法研修所編「新問題研究要件事実」136頁)
なお、「暫定真実」については所有権に基づく所有権移転登記手続請求(短期取得時効)も参照。

要件:「前主が権利者でないことを知っていたこと」について

即時取得における「善意」
「即時取得における善意は、動産の占有を始めた者において、取引の相手方がその動産につき権利者であると誤信したことをいうとされています」(司法研修所編「新問題研究要件事実」140頁)
「 民法一九二条にいわゆる「善意ニシテ且過失ナキトキ」 とは、動産の占有を始めた者において、取引の相手方がその動産につき無権利者で ないと誤信し、且つかく信ずるにつき過失のなかつたことを意味する」((最三小判昭和26年11月27日民集5巻13号775頁:裁判所裁判例検索
「 右法条にいう「過失なきとき」とは、物の譲渡人である占有者が権利者たる外観を有しているため、その譲受人が譲渡人にこの外観に対応する権利があるものと誤信し、かつこのように信ずるについて過失のないことを意味するものである」((最一小判昭和41年6月9日民集20巻5号1011頁:裁判所裁判例検索))
半信半疑の場合
即時取得における「善意」は”取引の相手方がその動産につき権利者であると誤信したこと”であるため、この場合の”悪意”とは、”前主が権利者であると信じていなかったこと”と解される。
すなわち、即時取得の場合には、「善意」というためには、単に”前主が無権利者であることを知らなかった”だけでなく、積極的に”権利者であると信じていたこと”が必要であり、「悪意」というためには、”前主が無権利者であることを知っていたこと”のほか、”権利者であることを疑っていたこと”を主張・立証すればよい。
(司法研修所編「改訂紛争類型別の要件事実」115頁)

一般の悪意   => 無権利者であることを知っていた
即時取得の悪意 => 無権利者であることを知っていた + 権利者であることを疑っていた(半信半疑を含む)

一般の善意   => 無権利者であることを知らなかった(権利者であることを疑っていた場合を含む)
即時取得の善意 => 権利者であると信じていた(権利者であることを疑っていた場合を含まない)