要件事実データベース

所有権に基づく動産引渡請求(即時取得)

ダイアグラム

要件前主との「取引行為」
要件取引行為に基づいて「動産の占有を始めた」こと
要件相手方が当該動産を占有していること

参考文献:司法研修所編「新問題研究要件事実」137頁

関連条文: 民法第192条

民法 第192条 (即時取得)

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

ブロック:「所有権に基づく動産引渡請求(即時取得)」について

訴訟物
本ブロックを裁判で請求する場合の訴訟物は「所有権に基づく返還請求権としての動産引渡請求権」となる。
即時取得の要件
即時取得の条文上の要件は以下の①~⑥である。
①前主との「取引行為」
②取引行為に基づいて「動産の占有を始めた」こと
③占有開始が「平穏に」なされたこと
④占有開始が「公然と」なされたこと
⑤占有開始が「善意で」なされたこと
⑥占有開始が「過失がない」状態でなされたこと
しかし、即時取得は、前主が動産を占有していることにより、これを真の権利者と信頼したその取引の相手方を保護する制度であるから、明文にはないが、以下⑦も要件と解されている。
⑦前主の占有
なお、③~⑦については、後述のように民法186条1項および民法188条により主張・立証責任が転換されている。
(参考文献:司法研修所編「新問題研究要件事実」136頁)
民法186条1項(暫定真実)
民法186条1項は、『占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。』と規定している。これは、主張・立証責任の転換を図る、いわゆる暫定真実を規定するものと解されている。この規定により、前述③占有開始が「平穏に」なされたこと、④占有開始が「公然と」なされたこと、⑤占有開始が「善意で」なされたこと、の主張・立証責任が転換されることになり、即時取得を主張する者は、これらに該当する具体的事実を主張・立証する必要はなく、相手方が抗弁としてそれぞれの反対事実である強暴、隠秘または悪意に該当する具体的事実を主張・立証すべきことになる。(参考文献:司法研修所編「新問題研究要件事実」136頁)
なお、「暫定真実」については所有権に基づく所有権移転登記手続請求(短期取得時効)も参照。
民法188条(法律上の権利推定)
「民法188条は『占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。』と規定しており、処分権があると称して取引をする動産の占有者には、その処分権があるものと推定されます(法律上の権利推定。……)ので、動産の占有取得者は、前占有者に所有権があると信ずることについて過失がないものと推定されることになります。」(司法研修所編「新問題研究要件事実」137頁)
なお、裁判例においても、(民法192条)「 にいう「過失なきとき」とは、物の譲渡人である占有者が権利者 たる外観を有しているため、その譲受人が譲渡人にこの外観に対応する権利があるものと誤信し、かつこのように信ずるについて過失のないことを意味するものであ るが、およそ占有者が占有物の上に行使する権利はこれを適法に有するものと推定 される以上(民法一八八条)、譲受人たる占有取得者が右のように信ずるについて は過失のないものと推定され、占有取得者自身において過失のないことを立証することを要しないものと解すべきである。」((最一小判昭和41年6月9日民集20巻5号1011頁:裁判所裁判例検索
以上より、即時取得を主張する者は、⑥占有開始が「過失がない」状態でなされたこと(無過失)を主張・立証する必要はなく、相手方が占有取得者に過失があることを主張・立証すべきことになる。

要件:「前主との「取引行為」」について

要件:「取引行為に基づいて「動産の占有を始めた」こと」について

占有改定と即時取得
「 無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法一九二条 によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ず るがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来たさない いわゆる占有改定の方法による取得をもつては足らないものといわなければならない」((最一小判昭和35年2月11日民集14巻2号168頁:裁判所裁判例検索

要件:「相手方が当該動産を占有していること」について

占有の概念
「占有の概念が相当観念化していることからすると、単に「占有している。」と主張するだけでは、攻撃防御の目標としては不十分で、要件事実としての機能を果たすことができません。したがって、攻撃防御の対象がなんであるかがわかる程度に、所持の具体的事実(同法180条の場合)や代理占有の成立要件に該当する具体的事実(同法181条の場合)などを要件事実として主張することが必要となります。しかし、相手方の占有について当事者間に争いがない場合には、攻撃防御の目標としての明確性を考慮する必要はありませんから、この要件に該当する概括的抽象的事実としての「占有」について自白が成立したものとして「占有している。」という程度の適示をすれば足りると考えられます。」(司法研修所編「新問題研究要件事実」63頁)
占有の時的要素
相手方の占有がいつの時点で必要かについて「現占有説」と「もと占有説」がある。「現占有説」が通説である。
「現占有説」物権的請求権の発生要件として、口頭弁論終結時における占有が必要であるという見解
「もと占有説」占有による妨害状態は、所有権取得後の一定時点で存在すれば足りるとし、その後の相手方の占有の喪失が抗弁となるという見解
(参考文献:司法研修所編「新問題研究要件事実」64頁)