要件事実データベース

背信的悪意(対抗関係)

ダイアグラム

要件相手方の悪意
要件相手方が自己との関係で背信性を有すること

参考文献:岡口基一「要件事実マニュアル1第5版」331頁

関連条文: 民法第177条

民法 第177条 (不動産に関する物権の変動の対抗要件)

不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

ブロック:「背信的悪意(対抗関係)」について

要件:「相手方の悪意」について

「悪意」の例
当該不動産について売買による所有権取得を主張する者が相手方の「悪意」を主張する場合、自己が本件不動産を買った事実を相手方が認識していたこと、を主張する。
当該不動産について取得時効による所有権取得を主張する者が相手方の「悪意」を主張する場合、自己が当該不動産を占有継続した事実を相手方が認識していたこと、を主張する。

要件:「相手方が自己との関係で背信性を有すること」について

裁判例
①身分関係および従前の物権変動における役割等から従前の物権変動の当事者に近接した地位とみられる事情、②第三者となった取引の動機・目的等、を考慮して背信的悪意者にあたると判断された裁判例。
「上告人A2は、上告人A1と親族で、同上告人の主宰する株式会社の取締役の職にあるなどの関係にあり、同上告人の意を受けて被上告人らとの間に本件土地建物の売買契約解消の交渉をしたことがあつたこと、上告人A2は、被上告人らが本件土地建物を上告人A1から買い受け、すでに本件土地上に鉄筋コンクリート造旅館をも新築して本件土地を占有使用しており、上告人A1と訴外Eほか四名との間の本件土地に関する別件訴訟も実質上被上告人らのために追行されているなどの事情を知りながら、被上告人らに秘し、みずから右訴外人らと交渉して、訴外人らの登記の抹消、示談金の支払と訴訟の取下を内容とする示談契約を成立させ、これと前後して、上告人A1との間に土地交換契約を締結
して本件土地所有権を取得しその旨の登記を経由したものであること、上告人A2が右交換契約を締結した目的につき、首肯するに足りる理由が認められず、その目的は、本件土地につき被上告人ら名義の登記がなされることを妨げ、被上告人らの本件土地所有権取得の効果を対抗要件の欠缺により失わしめるにあつた……右事実関係のもとにおいては、上告人A2は、いわゆる背信的悪意者として、被上告人らの本件土地所有権取得についての登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない」(最一小判昭和48年4月12日集民109号79頁:裁判所裁判例検索
裁判例
係争不動産に関する和解の立会人となった者が背信的悪意者にあたると判断された裁判例。
「 被上 告人B2は、単に本件山林が被上告人B1から上告人に対して贈与された事実を知 悉していたというに止まらず、後に生じた右両名間の紛争について自ら立会人とし てその解決に努めたうえ、右贈与の事実を確認し、すみやかにその旨の所有権移転 登記手続をすべきことを内容とする和解を成立させ、自ら立会人として和解条項を 記した書面に署名捺印したというのであり、他方、その後に至つて、自己の債権の 満足を得るために、右和解の趣旨に反し、本件山林をB1の所有物件として差し押 えたというのであるから、同被上告人としては、上告人の本件山林の所有権取得に ついてその登記の欠缺を主張することは著しく信義に反するものというべきであり、 同人は右登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有する第三者には当たらない ものと解するのが相当である。」(最二小判昭和43年11月15日民集22巻12号2671頁:裁判所裁判例検索
裁判例
公序良俗に反する取引行為による場合に民法177条の「第三者」に該当しないと判断された裁判例。
「その認定した事実関係 の下において控訴人AがDと通謀の上本件不動産の横領を企てたものというべく、 本件山林につき控訴人AとDとの間に締結された売買契約は、公の秩序、善良の風俗に反する行為であつて無効たるを免れない旨、並びに、従つて、控訴人Aは、民法一七七条にいわゆる「第三者」に該当しない旨の原判決の判断は、いずれもこれ を正当として是認することができる。」最一小判昭和36年4月27日民集15巻4号901頁:裁判所裁判例検索
裁判例
登記具備を妨害した場合に背信的悪意者にあたると判断された裁判例。
「右認定の事実によれば、上告人A2は、本件不動産を買い受ける際そ の所有権の帰属につき上告人A1と被上告人とが係争中であることを知つていたばかりでなく、上告人A1が被上告人を欺罔して前記仮処分の執行を取り消させ、本件不動産が被上告人名義になることを妨げるにつき協力したものというべきである。 したがつて、上告人A2はいわゆる登記の欠缺を主張することができない背信的悪 意者にあたると解する」(最二小判昭和44年4月25日民集23巻4号904頁:裁判所裁判例検索
なお、不動産登記法第5条1項「詐欺又は強迫によって登記の申請を妨げた第三者は、その登記がないことを主張することができない。」