要件事実データベース

所有権に基づく土地明渡請求

ダイアグラム

要件自己が本件土地を所有していること(もと所有)
要件相手方が本件土地を占有していること

参考文献:司法研修所編「新問題研究要件事実」58頁

関連条文: 民法第202条第1項

民法 第202条 (本権の訴えとの関係)

占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。

2 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。

ブロック:「所有権に基づく土地明渡請求」について

物権的請求権
「民法には、所有権に基づく物権的請求権そのものについての規定はありません。しかし、物に直接の支配を及ぼすことを権利内容とする所有権の性質上、その権利内容を実現するために物権的請求権が認められるのは当然と考えられること、占有権については占有訴権が認められており、この点からもこれより強力な物権的請求権を認めるのが相当であること、民法202条が占有の訴えのほかに本件の訴えを認めていることに照らし、所有権について物権的請求権が発生するものと解されています。」(司法研修所編「新問題研究要件事実」55頁)
物権的請求権の種類
「所有権に基づく物権的請求権について、通説は、占有訴権における占有回収の訴え(民法200条)、占有保持の訴え(同法198条)及び占有保全の訴え(同法199条)に対応して、①他人の占有によって物権が侵害されている場合の返還請求権、②他人の占有以外の方法によって物権が侵害されている場合の妨害排除請求権、③物件侵害のおそれがある場合の妨害予防請求権の3類型に分類しています。」(司法研修所編「新問題研究要件事実」55頁)
民法188条との関係
「民法188条は、「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。」と規定しています。この規定については、法律上の権利推定の規定と解するのが一般ですから、同条が適用されるとすれば、原告が「被告に占有権原がないこと」を主張・立証しなければならないようにも思われます。しかし、所有権に基づく返還請求権が行使されたのに対して、占有者が所有者である原告から使用借権を取得したかどうかが問題となった場合には、同条は適用されないと解されており(最判昭35.3.1民集14.3.327[20])、他の占有権原についても同様と考えられています。」(司法研修所編「新問題研究要件事実」58頁)

訴訟物
本ブロックを裁判で請求する場合の訴訟物は「所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権」となる。

要件:「自己が本件土地を所有していること(もと所有)」について

所有要件の構造
「自己(X)が本件土地を所有していること」というのは、「現在(口頭弁論終結時)において、Xがその土地を所有していることです。しかし「現在のX所有」を立証することは困難ですから、過去のある時点におけるXの所有権取得原因を主張・立証することになります。いったん取得した所有権は、喪失事由が発生しない限り、現在もその者に帰属していると扱われるからです。」(司法研修所編「新問題研究要件事実」59頁)
所有権と権利自白(もと所有)
「所有権については、権利自白が認められるものと考えられていますから、現在若しくは過去の一定時点におけるXの所有又は過去の一定時点におけるXの前所有者等の所有について権利自白が成立する場合には、Xは、これらの時点におけるX又はその前所有者等による所有が認められることを前提として、請求原因①(注:「自己が本件土地を所有していること」)の主張・立証をすることができることになります。この場合の、Xやその前所有者等の過去の一定時点における所有を「もと所有」と表現しています。」(司法研修所編「新問題研究要件事実」60頁)

要件:「相手方が本件土地を占有していること」について

占有の概念
「占有の概念が相当観念化していることからすると、単に「占有している。」と主張するだけでは、攻撃防御の目標としては不十分で、要件事実としての機能を果たすことができません。したがって、攻撃防御の対象がなんであるかがわかる程度に、所持の具体的事実(同法180条の場合)や代理占有の成立要件に該当する具体的事実(同法181条の場合)などを要件事実として主張することが必要となります。しかし、相手方の占有について当事者間に争いがない場合には、攻撃防御の目標としての明確性を考慮する必要はありませんから、この要件に該当する概括的抽象的事実としての「占有」について自白が成立したものとして「占有している。」という程度の適示をすれば足りると考えられます。」(司法研修所編「新問題研究要件事実」63頁)
占有の時的要素
相手方の占有がいつの時点で必要かについて「現占有説」と「もと占有説」がある。「現占有説」が通説である。
「現占有説」物権的請求権の発生要件として、口頭弁論終結時における占有が必要であるという見解
「もと占有説」占有による妨害状態は、所有権取得後の一定時点で存在すれば足りるとし、その後の相手方の占有の喪失が抗弁となるという見解
(参考文献:司法研修所編「新問題研究要件事実」64頁)